(大阪大学大学院医学系研究科 外科学講座小児成育外科学 教授)
栄養療法についてのQ&A
中心静脈栄養(TPN)に伴う合併症は?
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短腸症候群の患者さんでは、長期間にわたってTPNが行われることが多いため、TPNに伴う合併症が生じる場合があります。
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TPNに伴う合併症として、①代謝性合併症、②カテーテル関連の合併症、③肝機能障害、④バクテリアルトランスロケーションなどがあります。
①代謝性合併症
TPNを行っている短腸症候群の患者さんでは、投与した輸液や栄養剤によって体内の電解質や栄養素のバランスが崩れる(不足あるいは過剰となる)ことが原因で代謝性合併症が起こります。例えば、必須脂肪酸、脂溶性ビタミン、ビタミンB12、カルシウム、マグネシウムなどの栄養素の欠乏には注意が必要で、貧血症状や疲労感、意識障害や手足のしびれなどの症状がみられた場合には、すぐに主治医に相談してください。また、栄養素の過剰投与が原因で高血糖や高トリグリセリド血症、鉄過剰などの状態になる場合もあるため、定期的な血液検査を行うことも重要です。
②カテーテル関連の合併症
TPNを行っている短腸症候群の患者さんでは、カテーテル関連の感染症が起こりやすく、重篤な合併症となりやすいため注意が必要です。発熱や、カテーテル留置部位の周辺が硬くなる、または腫れるなどの症状がみられた場合には、すぐに主治医に相談してください。その他に、カテーテルを留置した静脈内に血栓が生じる(中心静脈血栓症)場合もあります。
主なカテーテル関連の合併症
③肝機能障害
長期にわたってTPNを行っている短腸症候群の患者さんでは、さまざまな要因により肝機能障害が起こりやすく、生命を脅かす合併症となる場合があるため注意が必要です。短腸症候群患者さんにおける肝機能障害は腸管不全合併肝障害(IFALD)と呼ばれています。合併症を引き起こさないためにも定期通院をし、医師の診察と検査を受けてください。
④バクテリアルトランスロケーション
腸粘膜のバリア機能が低下し腸内の細菌が血管内へ入り込んでしまうことを、バクテリアルトランスロケーションと呼びます。TPNを行っている短腸症候群の患者さんでは、長期間にわたり小腸を使用していない状態が続くことにより、腸粘膜が萎縮してバクテリアルトランスロケーションが起こりやすい状態になります。バクテリアルトランスロケーションは、肺炎や敗血症を引き起こし、さらにそれに続く多臓器機能不全につながる可能性があります。忘れずに定期通院をし、医師の診察と検査を受けてください。
在宅で治療は継続できるの?
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手術後の小腸の吸収能が回復して安定した状態となれば、在宅経腸栄養(HEN)や在宅静脈栄養(HPN)が可能となる場合があります。在宅で栄養療法を継続できるかどうかは、主治医が患者さんの状態をみて判断します。
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在宅での栄養療法を始める前には、患者さんの十分なトレーニングが必要となります。子どもや高齢の患者さんなど、患者さんご自身で栄養療法を行うのが難しい場合には、ご家族に協力していただくことで、ご自宅で治療することが可能です。